ADRオプション - 世界の株式を対象とするオプション   (2008年8月11日)


ADR(米国預託証券)とは?

米国の証券市場では、ADR(American Depositary Receipt)と呼ばれる証券が取引されています。 ADRは、日本語では「米国預託証券」と訳されます。

ADRとはニューヨーク銀行に預託された外国企業の株式のことで、投資家は実質的に米国株と同じようにADRを売買することができます。

現在、米国市場では世界中のADRが取引されています。
おおよそ株式市場が存在する国であれば、ほとんどの国の株式が取引されているといっても良いでしょう。

たとえば、ブラジル、ロシア、インド、中国といったいわゆる「BRICs」諸国の株式や、イギリス、ドイツ、フランスといったヨーロッパの株式も多数上場されています。

さらに、日本企業の株式もADRとして活発に取引されています。
ニューヨーク証券取引所にはトヨタ(TM)、松下(MC)、キヤノン(CAJ)といった日本の大手企業のADRが上場しており、海外投資家によって活発な売買が行われています。

米国市場の投資家は、米国の株式を取引するのと同じような感覚で世界中のADRを取引できます。
ADRの価格は、本国での株価をドルに換算したものとなるため、ドルの下落に対しては「ヘッジ」として機能するという側面もあります。

ADRを対象とするオプション

そして、これだけではありません。
米国市場では、ADRを対象とするオプションも活発に取引されています。

ADRのオプションといっても、投資家にとっては普通の株券オプションとほとんど変わりません。
ただ、オプションの原資産となる株式が米国株ではなく、外国の株式という違いがあるだけです。

そして、日本企業のADRを対象とする株券オプションも多くの取引高があります。

たとえば、2008年8月8日の取引では、トヨタ(TM)の株券オプションは一日に1,614枚の取引高がありました。

これは日本の株券オプション市場を考えると、かなり衝撃的な数字です。
東京証券取引所における2007年の株券オプション取引高は、一日平均で594枚でした。 これは東証の株券オプション銘柄、全143種を合わせた数字です。

つまり米国のADR市場では、トヨタ株のオプションだけで、東証で取引されている全銘柄のオプションよりも取引高が多いのです。

その他、ホンダ(HMC)、三菱UFJ(MTU)、ソニー(SNE)などのADRでも、一日に数百枚から1,000枚以上のオプションが取引されています。
さらに、これらの銘柄を対象とするLEAPSさえも取引可能です。

日本の株券オプション市場は必要ない?

ここで一つの疑問が沸きます。
それは、「すでに日本企業の株券オプションを自由に売買できる市場があるなら、日本の株券オプション市場は必要なのか?」というものです。

もちろん日本のオプショントレーダーにとっては、国内の株式市場でオプションを取引できた方が良いでしょう。

しかし、これから日本の株券オプションが発展するためには多くのハードルを越えなくてはなりません。 取引所のシステム整備に始まり、証券会社の対応、そして投資家への認知も課題となるでしょう。

これまでも日本の株券オプションは、「いつかは大きなマーケットになる」と言われ続ける一方で、まだ一度も普及には至っていません。

大阪証券取引所は今年8月、米インターナショナル・セキュリティーズ取引所(ISE)との業務提携を解消し、共同で株券オプションの新市場を設立するという計画を白紙撤回しました。
東京証券取引所はデリバティブ取引の新システムを稼動させたばかりですが、2008年に入って既に3回のトラブルが発生しています。
ここにきて足元のインフラから揺らいでおり、日本のオプション市場の展望には黄信号が灯っています。

今では格安のオンライン・ブローカーを利用して、日本から米国市場にアクセスすることがかつて無いほど容易になっています。
すでに豊富な選択肢があり、日本株のオプションも取引でき、取引の手数料も安い市場があるなら、日本の株券オプション市場が発展しなくても特に問題はないとも考えられます。

投資環境のグローバル化という流れの中で、日本市場の存在感は確実に薄れつつあります。
筆者のような個人投資家にとっては、より良い環境で取引を行えるマーケットがあるなら、それが日本市場であっても海外市場であっても構いません。

取引所が提供するサービスには、(1).取扱商品の豊富さ、(2).システムの能力・信頼性、(3).売買コストの低さ、(4).アクセシビリティ、などがあります。
投資家に良いサービスを提供する取引所は今後ますます発展を遂げ、国境を越えて取引のシェアを奪っていくと思います。

株券オプション取引における日本市場の空洞化は、その象徴の一つといえるかもしれません。

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