相場の波とオプション売りの罠   (2013年1月9日)


なぜ過ちは繰り返されるのか

昨年11月からの日経平均株価の上昇により、オプションの売りポジションで大きな損失を出したトレーダーが少なからずいたようです。

今回に限らず、「オプションの売りで大損した」という話は相場が大きく動くたびに聞きます。 そもそもオプションの売りは、原資産の相場が大きく変動すると事実上無制限の損失を出す可能性があるから、こういった損失は当然のことであるという向きもあります。 しかし経験豊富なトレーダーは、「相場の変動ではなく、損失を管理できないことが問題」と言って反論するでしょう。

相場が急激に変動する時、損切りを実行しないことによって多大な損失を抱えてしまうトレーダーはあらゆるマーケットに存在します。 株式やFX、先物のトレードでも同じ現象があり、オプションに限った話ではありません。

しかし筆者は、オプションならではの問題もあると考えます。

オプション売りの罠

オプション売りの場合、損切りをしないトレーダーでもある程度の期間は利益を出せる可能性があります。 そして損切りを学習する機会がないまま、長期間マーケットにいることも十分可能です。

株式やFX、先物などのトレードでは、損切りをしないと短期間のうちに高確率で大きな損失を出します。 そのためトレードの初心者でも早い段階で損切りの重要性を学習するのです。

一方でオプション売りの場合、特に日経225オプションのようなヨーロピアン・タイプの指数オプションにおいては、売ったオプションがイン・ザ・マネーになっても満期前であれば権利行使を受けることがないため、損切りせずに満期日まで放置するという選択肢=誘惑があります。 結果として、そのようなトレードが利益になる場合もあり、損切りしなければ儲かるという誤ったフィードバックを得てしまう危険があります。

すると次にどうなるでしょうか? トレーダーはリスクを忘れてもっと儲けたいと思うようになり、ヘッジを掛けずにポジションを増やし、証拠金を目一杯に使ってオプションを売るようになります。 それでも相場が一定のレンジ内で小動きをしている間は、継続して利益を得られます。(そしてやっかいなことに、全体の70%の期間がレンジ相場と言われています)

オプションの売りで儲けることが当たり前のように思われてくる頃、相場は突如としてボックス圏を突き破って大きく変動します。 宴は突然終わり、「オプション売りによる大損」という何度も繰り返される悲劇が起こります。 最初は上手くいくように思わせておき、ある日突然、手のひらを返して資金を回収する――市場とは何と巧妙な生き物なんでしょうか。

オプションの売りは、実は損切りしやすい

トレーダーが損切りを躊躇するとき、頭の中では2つの感情が渦巻いています。 それは恐怖です。 「このままポジションを持っていれば、後で大きな利益を得られるかもしれないぞ」という欲の誘惑。 そして「損をしたくない… いま手仕舞いしたら損だ… 損をしちゃだめだ!」という損失への恐怖です。 この2つのささやき(両方とも悪魔のささやきです)が感情を支配し、トレーダーは身動きが取れなくなってしまいます。

前者の欲望に関しては、オプションの売りは特異な性質を持っています。 例えば、株式、先物、FXでロング(買い)のポジションを持っている時には、利益機会は理論上無制限であるため、「手仕舞いしなければ大儲けできるかも…」という誘惑が生じ、葛藤が大きくなります。

しかしオプション売りの場合、利益の最大値は最初に売却した時点でのプレミアムに限定されており、相場がどんなに有利に動いてもそれ以上の利益は見込めません。そのため、「大きな利益が得られるかもしれない」という欲の誘惑は、FXトレードなどに比べてずっと小さくなります。

収支の面からいえば、損切りの判断が結果として間違いだった場合でも、それに伴う機会損失は小さいということになります。 これは意外に見落とされている部分だと思います。 トレーダーはこの性質を正しく理解することで、「いつでもポジションを手放して大丈夫」という余裕を持つことができ、ポジションに対する執着は小さくなります。 この余裕は損切りの時だけでなく、利食いの時にもプラスに働きます。

あとは損切りを躊躇させる誤った恐怖心をなくし、損切りをしなかった場合に起こりうるリスクに対して「正しい恐怖心」を持つことができれば、 オプションの売りを手仕舞いする時の心理的な障害は克服できるはずです。

長期的なトータルで考える

損切りを確実に実行するためには、まず損切りを躊躇させる感情を知ることが大切です。 実戦のトレードでは大きな感情の波にさらされることもありますが、それを事前に理解しておけば心の準備ができます。

そして損切りによって一時的に損失を出したり利益が減ったりすることがあったとしても、長い期間のトータルでは確実に損切りしないトレーダーよりも儲かることを知っておくべきです。 詳しい数字や統計を出すまでもなく、長期的に成功しているトレーダーを見れば答えは明らかです。 彼らは例外なく損切りを厳格に行なっています。

オプション・トレードにおける選択肢としては、バーティカルやカレンダーのヘッジを掛ける(クレジット・スプレッドやカレンダー・スプレッド等)のも非常に効果的です。 これらの戦略はオプションの買いポジションがヘッジ(保険)となり、売りの損失リスクが限定されます。 相場の大暴落時には損切りが間に合わないこともありますが、ヘッジを含んだポジションであれば無制限の損失を出すことはありません。

損失をコントロールできるようになれば、トレードで成功する確率は高くなります。 考え方を理解したら、あとは「実行! そして習慣化!」あるのみです。

すでに実行できている方は今までどおりに、出来ていない方は本コラムを参考にして「今後の波」に備えていただければ幸いです。
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