3.コール・オプションの売買




■ コール・オプション

コール・オプションとは、ある物(=原資産)を買う権利のことをいう。
原資産が株式の場合、コール・オプションは「ある日時に、ある価格で株を買う権利」を意味する。

株式のコール・オプションの例

株式 株式オプション
       権利行使価格:1,000円
   プレミアム: 100円
   期日 : 10月1日
コール


上の例では、ある株を1,000円で買うことができる権利(コール・オプション)を示しているよ。
この価格(1,000円)のことを、権利行使価格とよぶ。

そして、オプション自体の値段のことを、プレミアムというよ。

それからもう一つ。 オプションには必ず期日(満期日)というものがある。
上の例では、期日は10月1日に設定されている。

以上をまとめると、このコール・オプションは「株を10月1日に1,000円で買う権利」ということになる。(※)

※ 権利行使について
権利行使の種類には、アメリカン・タイプとヨーロピアン・タイプがある。(後述)
ここでは、ヨーロピアン・タイプとして説明しています。


えーっと、一つのオプションには、「権利行使価格」 「プレミアム」 「期日」の3つがあると。


そういうことになる。 実際に、売買のやりとりを見た方が分かりやすいよ。

オプション売買日:9月1日

 
オプションの原資産である株式
(9月1日現在の株価は950円)
時価950円の株式
買い手
買い手
- 100円
コール・オプションを買い、100円のプレミアムを支払った。

Call Option
権利行使価格: 1,000円
プレミアム: 100円
満期日: 10月1日
売り手
売り手
+ 100円
コール・オプションを売り、100円のプレミアムを受け取った。


コール・オプション取引例
この取引では、オプションの売買成立日は9月1日で、オプションのプレミアム(価格)が100円で取引されたとする。


このオプションの権利行使価格は1,000円で、期日は10月1日だから、オプションの買い手は、「10月1日に、株を1,000円で買う権利」を買ったということ?


その通り。
ここで注意が必要なのは、コール・オプションの買い手は、権利行使価格で株を購入する権利を持つが、これは必ず買わなければならない義務ではない。

一方、コール・オプションの売り手は、コール・オプションの買い手の要求に応じて、権利行使価格で株を売る義務を負う。


買い手は権利、売り手は義務・・・っと。
でもちょっと待った!

オプションを売るっていうのがよく分からないんだけど。
そもそも、売るためのオプションはどこにあるの? 株を空売りするときみたいに、証券会社から借りなきゃいけないとか??


トレーダーがオプションを売るためには、オプションを持っている必要も無いし、誰かから借りる必要もない。
つまり、オプション取引では、持っていないものを売ることができるんだ。

これは奇妙に感じるかもしれないけど、保険会社がやっていることと似ているよ。
保険会社は何もないところから「契約」を作り出し、それを顧客に販売しているね。 その見返りとして、保険会社は保険料を受け取る。(保険料は英語で「プレミアム」)
そして何かが起こった時には、保険会社は顧客に保険金を支払う義務がある。

オプションも「契約」という点において保険と同じだ。 売り手は何もないところからオプション契約を売ってプレミアムを受け取ることができる。 しかし相場が不利に動いた時には、対価を支払う義務があるということだね。


ほぉー。 もっと詳しく知りたいかも。


それでは、上記のオプション取引から1ヶ月後を見てみよう。
結論から言うと、株価が1,100円以上になった場合は、オプションの買い手が利益を得て、売り手が損をすることになる。

逆に、株価が1,100円以下にとどまった場合は、売り手が利益を得て、買い手が損をすることになるんだ。

■ケース1: 10月1日に株価が1,100円以上の場合

 
満期日の株価が
1,200円に上昇
時価1,200円の株式

株価上昇
買い手
買い手が利益
+ 100円
1,000円で買う権利(コール・オプション)を行使し、時価1,200円の株を1,000円で買うことができる。(権利行使)
株を1,000円で買い、すぐに1,200円で売れば200円の利益となる。

最初にオプションのプレミアムとして100円支払ったので、トータルで1株あたり100円の利益。

コール・オプション2
権利行使価格: 1,000円
プレミアム: 200円
満期日: 10月1日
売り手
売り手が損失
- 100円
コール・オプションの売り手は、買い手の要求(権利行使)に応じる義務がある。
つまり、時価1,200円の株を1,000円で売らなくてはならないので、200円の損失となる。

最初にオプションのプレミアムとして100円受け取ったので、トータルで1株あたり100円の損失。


コール・オプション 取引結果1
このように、期日までに株(原資産)の価格が十分に値上がりすれば、コール・オプションの買い手は利益を得て、売り手は損失を被ることになる。

実際のマーケットでは...
現実の株式オプション取引では、1枚のコール・オプション契約が100株を買う権利に相当します。
上記の例では、買い手は権利行使によって1株あたり1,000円で100株購入し、1株あたり1,200円で100株売却できるため、トータルで2万円の株式売却益を得られます。 最初に1万円のプレミアム(100円×100株)を支払ったので、取引全体では1万円の利益となります。
同様に、売り手は実際のマーケットでは1万円の損失となります。


なるほど。 でも買い手がいつも利益を得るわけじゃないんでしょ?


もちろん、その通り。
では、コール・オプションの取引後に株価が上がらなかったケースを見てみよう。

■ケース2: 10月1日に株価が1,100円未満の場合

 
株価は950円のまま変化しなかった
時価950円の株式
 
買い手
買い手が損失
- 100円
1,000円で買う権利を保有しているが、株価は950円なので、権利行使をするメリットがない。(権利放棄)

オプションのプレミアムとして最初に100円支払ったので、トータルで1株あたり100円の損失。

コール・オプション1
権利行使価格: 1,000円
プレミアム: 0円
満期日: 10月1日
オプションの権利放棄
(期限切れ)
売り手
売り手が利益
+ 100円
売ったオプションが期限切れ(0円)になったので、何もする必要がない。

オプションのプレミアムとして最初に100円受け取ったので、トータルで1株あたり100円の利益。


コール・オプション 取引結果2
オプションの買い手は、「株を1,000円で買う権利」を保有している。
しかし、株価は950円のまま変化していない。
普通に買えば950円で買える物を、わざわざオプションの権利を使って1,000円で買いたいという人はいないよね。

つまり、このコール・オプションの価値は紙くず同然になってしまった。
このように、期日にオプションの価値が無くなり、買い手が権利を行使しないことを「オプションの権利放棄」と呼ぶよ。


コール・オプションを買ったときには100円のプレミアムが付いていたけど、期日には0円になってしまった。 だからオプションの買い手は損をしたということか。




■ 取引のまとめ ~買い手と売り手の損益

上の例では、オプションの満期日に株価が1,100円を上回っているかどうかで、買い手と売り手の損益が分岐する。 ここで、コール・オプションの買い手の損益グラフで見てみよう。

コール・オプション 買い手の損益


損失は最大でもオプションのプレミアムだけなんだね。
でも、原資産がすごく値上がりすれば、利益はどんどん大きくなる可能性があるということかぁ。


つまり、オプションの買い手は「損失限定、利益無制限」の可能性があるということが分かる。
では次に、コール・オプションの売り手の損益グラフを見てみよう。

コール・オプション 売り手の損益


最大利益はオプションのプレミアムに限定されているけど、原資産がすごく値上がりしてしまうと、損失はどこまでも膨らんでしまう可能性があるのか。


ちょうど買い手と正反対だね。
オプションの売り手は、「利益限定、損失無制限」の可能性がある。

ここで、売り手の損益について注目すべき点がある。
コール・オプションの売り手は、取引後に株価が横ばいで推移しても利益を得られるということが上のグラフから分かる。
これは、第一回のオプショントレードの利点でも触れたように、オプショントレードの大きな特徴の一つだよ。


うんうん。 普通の株取引だったら、横ばい相場で利益を得る方法はないもんね。


さらに、たとえ相場が不利な方向に動いても、その動きが小さければオプションの売り手は利益をあげることができるんだ。

上の取引例で言うと、最初に950円だった株が値上がりしたとしても、1,100円以上にさえならなければ、オプションの売り手は利益を得ることができる。


なるほどねぇ。 でも、オプションの買い手の方がリスクも限定されているし、大きな利益を得られる可能性もあるから断然有利なように思えるけど…


たしかに損益グラフをパッと見たかぎり、そう考えてしまいがちだね。
でも、「利益になる確率」は売り手の方がずっと高いこともあり、一概にどちらが有利とはいえないんだ。
実際に市場で取引されているオプションのうち、80%は権利行使されないまま期日を迎えるという統計データもある。

オプションの買い手は、ほとんどの場合に損をするけど、まれに投資資金の何十倍という高い利益を得られる可能性がある。
オプションの売り手は、利益を得られる可能性がとても高いけど、思わぬ相場の大変動によって、それまで少しずつ稼いできたお金を一気に失う可能性があるわけだ。

オプショントレードを上手くやろうとするなら、買いや売りにとって有利な状況を見つけることが重要になってくるよ。




■ オプションをそのまま転売できる

これまでの例では、コール・オプションの買い手が満期日までオプションを保有するケースを見てきた。
ここで、期日前に株が大きく値上がりした場合を考えてみよう。

この場合、オプション自体の価値(プレミアム)が上昇するから、買い手はオプションを転売することによって、期日前に利益を得ることも可能なんだ。
Stocks trading at $12 per share 株価が上がると…
コール・オプション1 オプションの価値(プレミアム)も上昇する


ほほぅ。
期日が来ていなくても、オプション自体の値段が上がるんだね。


そういうこと。
実際、オプションの買い手は、期日まで待って権利行使を行うよりも、途中でオプションの価値が上がったときに転売したほうがメリットが大きい。

理由は、オプショントレードの利点で説明したように、そのほうがレバレッジ(少ない資金で大きな利益)があるからだ。
もう1つの理由は、オプションの時間価値というものに関係してくる。 これは後で詳しく説明するよ。


オプション自体を買ったり売ったりするんだね。 これがオプショントレードってやつなんだ。


オプションの権利を行使して、オプションの対象物(原資産)を売買することもできるし、オプション自体を売買することもできる。 これがオプションの自由度の高さともいえるね。

では次に、売り手の立場にたって考えてみよう。
コール・オプションの売り手は、取引後に株が大きく値上がりしてしまうと、オプションの期日に権利行使に応じる義務を負うことになる。

これを避けるために、売ったオプションを期日前に買い戻すことができるんだ。
このとき、オプションの値段は売ったときよりも高くなっているから、その時点で損失を計上することになる。 しかし、損失を一定以内に抑えるためにはこういった対処も必要だ。


なるほど。 引き際が大事ってことか。
ところで、オプションにはもう1種類あったよね?


うん。 買う権利のコール・オプションに対して、売る権利のプット・オプションというのがある。 原資産を“買う”か“売る”かの違いがあるだけで、他は同じだから心配無用だ。

ということで、次回はプット・オプションについて説明しよう。


イエッサー。


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